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執筆者の写真CURIOCITY編集部

trigger1 『Miwa Sasaki (佐々木美和)』


仕事や人間関係にとらわれ『自分らしさ』を見失い、知らないうちに閉塞感が心を侵食していく。 そんな経験をしたことがある人は、僕含め案外多いのかもしれない。 SNSが流行し、『直接顔を合わせないコミュニケーション』が盛んになっている時代の中で、『人と人との直接的な関係』に可能性を見出しているボディメソッドに出会った。


『Ambient move.(アンビエントムーブ)』


ゆっくりと深呼吸し、他者と触れ合うことに心地よさを求める。 『Ambient move.』発案者である『佐々木美和』さんのtriggerに迫る。


佐々木美和さん →以後『M』 聞き手 →以後『聞』



受験勉強にバレエの時間を割かれるのが嫌で仕方なくて




聞:『Ambient move.』を発案したきっかけを伺う前に、美和さんの経歴についてお聞きしたくて。事前に『Ambient move.』のホームページを拝見させていただいたのですが、クラシックバレエのダンサーとして『チャイコフスキー記念東京バレエ団』に入団されていますよね?相当な努力と実力が必要なことだと思うのですが、まずは、バレエを始めたきっかけや東京バレエ団時代のことについて伺ってもいいですか?


M:バレエを始めたのは6歳の頃でした。当時、通っていた幼稚園でバレエ教室が開催されると知って、友だちと参加したことがバレエを始めたきっかけです。その後は、地元に素敵な先生がいると紹介していただき、小さなバレエ教室に通いました。持ちスタジオがなく、団地の集会所を借りていたので、夜は窓ガラスを鏡代わりにして練習していました。


聞:東京バレエ団に入団するまでは、ずっとそのバレエスクールに通っていたのですか?


M:基本はずっと同じスクールです。紹介していただいた先生も歴史あるバレエ団出身の方だったので、とても貴重な時間でした。東京バレエ団を受験する前は、東京バレエ学校というスクールに4ヶ月くらい通っていました。


聞:学生時代は、部活に入られていたのですか?


M:バレエに集中していたので部活には入りませんでした。高校入学の際に初めて受験を経験したんですけど、受験勉強にバレエの時間を割かれるのが嫌で仕方なくて。もう受験はしたくないと思って、高校と大学が一貫になっている学校を選びました。


聞:大学入学前に東京バレエ団への入団が決まるわけですが、なぜ東京バレエ団を選んだのですか?


M:モーリス・ベジャールという有名な振付家がいるんですけど、彼の作品を国内で唯一公演しているのが東京バレエ団だったんです。すでに亡くなられている方なんですけど、彼の作品を踊りたくて東京バレエ団を選びました。プロを目指すダンサーさんって、バレエ団をいくつも受験することが多いのですが、私は東京バレエ団しか受けてなくて。東京バレエ団がダメだったら、バレエはきっぱり辞めて大学生になろうと思っていました。


聞:そしたら見事合格したわけですね。大学へは進学されたのですか?


M:一応進学したのですが、入学したての頃に東京バレエ団への入団が決まったので、休学せざるを得なくなってしまって。結局そのままやめることになってしまいました。


聞:バレエ団やカンパニーの日常的なスケジュールって、馴染みがない人だと想像しにくいと思うのですが、バレエ団時代の生活について教えていただけますか?


M:レッスンは基本、週5日ありました。入団1年目は、早朝1番にスタジオへ行って、スタジオや更衣室をきれいにした後、午前中のレッスンを受ける、という流れです。私たちのレッスンが終わったあとは、先輩たちのリハーサルを最前列で見学させていただきました。スタジオの入り口が半地下だったので、日光を見ないで時間だけが過ぎていって、まるで「山に籠る仙人みたいだな」って思ったこともあります。笑


聞:まさに修行だったんですね。笑 6歳からずっとバレエをやってきて、東京バレエ団にも入団できたわけですが、辞めたいと思ったことはありましたか?


M:辞めたいと思ったことは、1回もありませんでした。スイッチが入るとストイックになるタイプなので、好きなダンサーさんの脚の使い方とか体の使い方をDVDで何度も見て研究したりして。兄がいるんですけど、なんでそんなにストイックに続けられるんだって不思議がられたこともあります。


聞:それだけダンスにストイックに向かっていたら、レッスンで自分が見学しているだけだと、悔しくなったりしませんでしたか?「自分も踊りたい!」みたいな。


M:悔しいというよりかは、レッスンを受け続ける毎日に「私は一体何をしているんだろう」っていう感覚に陥ったことはあります。入団1年目は、基本的に役がもらえないとわかっていても、入団前は役をいただいて踊らせてもらうことも多かったので。2年目、3年目になっていくと、役を頂けたり、念願のベジャール作品を踊らせて頂く機会があったり、ずっと夢見ていた場所に居ることの実感が湧いてきました。世界の一流ダンサーや講師の方と共に過ごした一瞬一瞬は宝物のようで、今でも鮮烈な記憶として残っています。


聞:東京バレエ団には、どのくらい在籍していたのですか?


M:私が入団して3年くらい経ったときに運営の方針がガラッと変わって、一気に団員の数が減る時期があったんです。そのときに、私の契約も更新されなくて。バレエをやっていて初めて「私って必要とされてないんだ」と感じてしまったこともあります。東京バレエ団を退団した後も、オープンスタジオっていう、誰でもレッスンが受けられるスタジオに通っていたんですけど、辛すぎてスタジオのドアを開けられない日もありました。ダンスが楽しいと思えない日もあったので、当時は、しんどかったです。



自分が誰かに褒められるためとかではなく、カンパニーのみんなのために踊りたい




聞:東京バレエ団を退団した後は、『珍しいキノコ舞踏団』というコンテンポラリーのダンスカンパニーに所属していますが、辛い時期があったにも関わらず、ダンスカンパニーに入団したのには、どういうきっかけがあったのですか?


M:入団したきっかけは、母でした。とにかく辛かった時期に、あるカフェに偶然立ち寄ったんです。 そしたらそこの店員さんたちが本当に楽しそうに働いていて「私もここで働きたい!」と思って。社員になる前提でアルバイトを始めました。でも母親から「今までの人生を棒にふるのか」って言われて。「あんなに好きでダンスをやっていたのに、カフェではダンスの経験なんて活かせないじゃない!」って。それで、母親のためというわけではないんですけど、もう一度踊れる場所を探し始めたんです。


聞:ダンスのカンパニーは、どうやって探したのですか?


M:YouTubeで「ダンス」と検索して、国内から海外までいろんなカンパニーのアップしている動画を見て探しました。いろいろなカンパニーのダンスを見ている中でも、すごく面白くて「何だこれ!」って思ったのが『珍しいキノコ舞踏団』だったんです。 ただ、ジャンルがコンテンポラリーだったので、今まで踊ったこともないし、どうせ受けても落ちるだろうとは思っていて。でも、受けてダメだったのなら母親も納得してくれるかなと思って、オーディションを受けました。


聞:そしたらまたしても、見事合格したわけですね。


M:はい。オーディションは5日くらいあって、みんなでご飯を食べたり、歌ったりもしました。ダンスをするときも、お題が出されたらすぐに手を挙げて1番にやるくらいに吹っ切れて楽しめたんです。オーディションが楽しすぎて、「これで落ちたら気持ちよくダンスをやめられなくなるじゃないか!」と思ったくらいでしたけど、ありがたいことに入団させてもらえて。本当に嬉しかったです。


聞:心から楽しいと思いながら踊れたのが、合格のきっかけだったんですね。


M:オーディションの時は、とにかくダンスが楽しいと思えました。入団させてもらえたことで、またダンスを踊らせてもらえることが1番嬉しかったです。自分が誰かに褒められるためとかではなく、カンパニーのみんなのために踊りたいと思いました。

聞:『珍しいキノコ舞踏団』では、どのくらい踊らせてもらっていたのですか?


M:3年在籍していました。演出家の方が私のためにソロパートを組んでくださったり、海外公演や地方公演にも参加させていただけたりすることもあって、自分の居場所を感じながら踊ることができました。


聞:自分にとっての踊る場所があるということは、ある意味満足できる環境だったと思うのですが、なぜそこからカンパニーを辞め『Ambient move.』を始めようと思ったのですか?


M:演出家の方が、本当に死ぬ気で踊っている、命を削って表現されている方で、そんな姿を間近で見ていると、私は、「命をかけられないなら舞台に立つべきではない」と思ってしまったんです。今までは、人のためとか演出家の言う通りに踊ることをしてきたんですが、「誰かのために」っていうやり方は、もう続けられないなと感じてしまって。そうなったときに、「私はなぜ踊るんだろう」「何を感じていたいんだろう」って考え始めるようになったんです。



誰かに委ねたり任せたりすることで、頑張れたり力を発揮できたりすることもあるんじゃないかと思ってます




聞:『Ambient move.』って、オリジナルのボディメソッドなんですか?


M:はい。Ambientという言葉は、Ambient musicという音楽からきています。環境音楽と呼ばれているジャンルで、環境に馴染むような、空間に漂うような魅力的な音楽なんです。『Ambient move.』には、人と人との境界線が溶け合ってなくなるような感覚になる瞬間があって、その感覚が環境音楽と似ているなと思ってつけました。


聞:Ambient musicというジャンルがあることを初めて知りました。『Ambient move.』は、特定の人数で行うメソッドなんですか?


M: 2人1組で背中合わせになって行うのが基本です。やっぱり、知らない人と背中合わせに体をくっつけるのに抵抗がある人も多いみたいなんですけど、人と人とが直接背中合わせになったときに、相手の背中から伝わってくるものって凄くて。 私は今まで踊ってきて、自分の体を完璧にコントロールするのがプロフェッショナルだと思っていたんですけど、誰かの体に身を委ねる、任せることから得られる安心感とか柔らかさって、実は1番大切なことなんじゃないかと思うようになったんです。自分が1人で立とうとしすぎて、壊れてしまう人って多い気がしていて、誰かに委ねたり任せたりすることで、頑張れたり力を発揮できたりすることもあるんじゃないかと思うようになりました。『Ambient move』がそれに気づくきっかけになればいいなと思っています。


聞:相手に体を委ねるとか任せることから安心感や温かさが得られるということに気づいたきっかけってあったんですか?


M:バレエ団時代の先輩とレッスンをやっているときに、たまたま遊びで背中合わせになって動いたことがあって、そのときに「あっ!これだ!!」ってなって。そこから発展させて出来上がりました。

聞:背中合わせになって気づくことって、具体的にはどんなことなんでしょうか?


M:1番感じるのは、やっぱり人の温かさなんですよね。人の肌の柔らかさとか体温ってすごくホッとするんです。『Ambient move』では、体重をお互いに預けあうんですけど、はじめは相手に気を使って体重をかけられなくても、やっているうちに「相手に委ねても平気なんだ」って気付くんです。それがすごく心地よくて、メソッドが終わると心も体も温かく、柔らかくなります。実際に受けてくださるお客さまにも「こんな感覚初めてです!」とよく言っていただきます。


聞:『Ambient move.』を通して、美和さんが、参加してくれる人に伝えたいことはなんですか?


M:伝えたいこと、難しいですね。笑 実は私の中で、明確に伝えたいこととか、こうなってほしいっていう願望は、あえて決めないようにしています。

聞:それはなぜですか?


M:私が『やりたいこと』を決めてしまうと、ある意味『エゴ』を押し付ける形になりかねないなと思っていて。『Ambient move.』を通して、参加してくれた人がイキイキしてくれれば、それが1番嬉しいです。その場所、その時間に心地よさとか安心感を感じてくれれば、きっとその感覚が、人のあたたかさだったり、柔らかさだったりに気づくきっかけにも繋がるんじゃないかと信じています。



みんな結局、自分がいたい場所とか、こうありたいと思うところに自然と行き着くと思うんです




聞:今回ご協力いただいている『trigger』というインタビュー企画には、僕らと同年代の『やりたいことがあるのに始められない人』『やりたいことが見つからない人』に向けて、何かを始める『きっかけ』を提示するというコンセプトがあるのですが、やりたいことがあるのに始められない人の中には、原因が資金面だったりする人もいると考えていまして。美和さんは現在、どのようにして生計を立てているのかお伺いしてもよろしいですか?


M:今は、『Ambient move.』と合わせて、ヨガスタジオの講師もやっています。空ヨガっていうハンモックを使ったヨガの資格を取ったので、その講師をしたり、ストレッチのクラスを教えたりしています。あとは、正社員になろうとしていたカフェで、去年と一昨年の2年くらい死ぬほど働いたので、そのときの蓄えをちょっとずつ使いつつって感じです。

聞:ちゃんと貯蓄を蓄えてから新しいことを始めているのは凄いです。僕は後先考えずに始めちゃうので...


M:でも、勢いも大切ですから!笑

聞:ありがとうございます。笑 美和さんは、何かやりたいことがある人とか、現状に満足できていない人が何かを始めるには、どんなきっかけが必要だと思いますか?一歩踏み出す勇気と言いますか。


M:勇気はいらないんじゃないかと思っていて。やっぱり、みんな結局、自分がいたい場所とか、こうありたいと思うところに自然と行き着くと思うんです。勇気がいるうちは、まだタイミングじゃないと思いますし、踏み出せなくて悩むくらいだったら、そのままでいい時期なんだと思います。今回の企画的に、この応えでいいのかな?笑


聞:大丈夫です。笑 とても美和さんらしいと思います。


M:ただ逆に「今じゃなくていいんじゃない?」とか「自分がベストなタイミングで始めればいんじゃない?」って言ってあげると、意外にすんなり「じゃあ今からやろう」って始められる人もいる気がして。誰かが決めるんじゃなくて、いつでもいいというか、自分で決めていいんだって思えば、その人のタイミングとか波に乗っていけるのかなと思っています。


聞:確かにそうかもしれません。案外僕たちって、何かを始めようとするときに、きっかけを他人や境遇に求めていたりして、それで辛くなっているのかもしれないですね。でも決めなくちゃいけないのは自分だから、自分でタイミングも決めていいわけで、そう考えると、すごく気持ちが楽になる人は多いと思います。


M:ギューってストイックにやり込むのは、やっぱりしんどいですよ。私自身かなりやり込んじゃうタイプなんですけど、それで心とか体が壊れちゃったときって、ニュートラルな状態に戻るまですごく時間がかかりますし。「まぁまぁ、お茶でも飲みながらゆっくりやっていこうよ」って気持ちで、自分が心地いい状態で長く続けることが大切だなと思います。





相当な努力とストイックさを兼ね備え、クラシックとコンテンポラリー両方のダンスを続けてきた彼女だからこそ、本当に大切なことや柔らかさにたどり着いたのかもしれない。 1人で必死に立ち続ける時期も必要なのかもしれないが、行き着くところは、やはり自分が『心地いい』と思える場所なのだろう。 独りには限界がある。 『Ambient move.』には、僕らが1番大切にしていきたい、人との関わり方、そして可能性が秘められているように感じた。



Ambient move. HP http://ambientmove.com



edit&text / Shuhei Fukuda photo / Haruya Tanaka


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